HIT-SAT開発物語
平成18年9月23日午前6時36分に鹿児島県内之浦宇宙空間観測所からM-V(ミュー・ファイブ)ロケットのサブペイロードとして、北海道初の超小型人工衛星『HIT-SAT(ヒット・サット)』が打ち上げられました。実はこのHIT-SATは北海道工業大学、北海道大学の学生を含む約20名のボランティアの開発メンバーにより大学の研究室内で製作されました。僅か重量2.7kg、大きさが12cm×12cm×12cmという小さなものですが、その中には人工衛星に必要な電子回路類が全て詰まっています。設計から打ち上げまでのHIT-SAT開発のエピソードを紹介したいと思います。
平成17年3月末頃に、私のところにM-Vロケット7号機に重量5kg以内のサブペイロード(相乗り衛星)を募集しているというEメールが送られてきました。同窓会からも超小型衛星の開発支援費を支援して頂くことが内定していましたので、渡りに舟だと思い、提案書を出してみたところ、幸運にも書類審査に合格しました。私自身は道工大に赴任する前に宇宙科学研究所で人工衛星の開発に携わっておりましたので、小さいとはいえ、非常に厳しい試験と審査を全てパスしなければ載せてもらえないことをよく知っておりました。当然ですが宇宙開発の現場では学生だからという甘えは通用しません。
M-V搭載が決定したとき、私は会議の冒頭で「自信のない人は今回は辞退して欲しい。」と言いました。学生とはいえハイブリッドロケットで空缶衛星(カンサット)を打ち上げた経験のあるメンバーだけあって、私の言葉に怯む人はいませんでした。これがHIT-SAT開発のキック・オフでした。HIT-SATの通信系を含む電子回路および地上管制局を北海道工業大学と(有)アイドマ、?ATF、?BUGのエンジニア(ボランティア)が、姿勢制御系と熱・構造設計および分離機構の開発を北海道大学と?植松電機のエンジニア(ボランティア)が担当することになりました。
最初に作ったのがブレッド・ボード・モデル(BBM)といって、人工衛星と同一の機能を持つ模型でした。BBMでは電子基板やセンサー類をテーブルの上に全部並べ、パソコンから送ったコマンドで設計通り作動するかどうかを評価しました。道工大と北大で各自が作ったものを8号館2階のテーブルの上に広げて組み立てては直すという作業が何度も続きました。設計会議では午前10時から夜11時過ぎまで激論が続きました。7月上旬に始まった設計審査は8月末まで続き、3回目の審査で合格の評価が出ました。
次は技術モデル(EM)といって、12cm立方の構体に収めたモデルを製作しました。回路設計や基板設計も製品網並みの品質が要求されることからBBMよりもレベルが上がります。EMからはロケットの打ち上げ環境試験(ランダム振動試験、低周波衝撃試験、高周波衝撃試験で壊れないことが審査基準となります。北海道工業大学で製作した回路基板を夕方に北海道大学の実験室へ持ち込んで徹夜で衛星構体に組み込み、翌朝には道立工業試験場で約20Gの加速度でガタガタと強烈な振動を加えます。コネクタの剥離など回路の破損などもあり、その度に品質管理と組み立て作業の工程管理のチェック体制が改善されました。開発メンバーは2227研究室に週5?6日は泊り込んで頑張りました。
平成18年4月からは相模原のJAXA宇宙科学研究本部でロケットとの噛み合わせ試験が実施されました。噛み合わせ試験では、分離機構(HIT-SATをロケットから切り離すための装置)とロケットインターフェースのネジ」穴の位置やコネクタの極性にミスがないことを確認した後、組み付けた状態での振動試験やダイナミック・バランス試験など一連の機械環境試験が実施されました。
フライトモデル(FM)の開発からは衛星の組み立て及び試験は全てクリーンルーム内で行うことになりました。FMの全動作確認試験と運用プログラムの実装作業は第2組オペと呼ばれる射場作業の直前まで続きました。赤平の?植松電機でHIT-SATの真空試験を実施し、先発隊が9月3日にFMを内之浦宇宙空間観測所へ搬入しました。
そして平成18年9月23日に内之浦から定刻通りにM-V(ミュー・ファイブ)ロケットが打ち上げられました。主衛星分離後の6時50分に宇宙空間に放出され、日本時間7時42分にHIT-SATからのCW(モールス信号によるコールサイン)を受信したという第一報がフロリダのアマチュア無線家から入りました。15時36分には道工大の地上局でもHIT-SATからの強いCW信号を受信しました。HIT-SATからの電波は受信感度が良好で一般家庭用のアマチュア無線アンテナでも受信できています。AMSATからはアマチュア無線の世界では特別な意味を持つ「59」の付いた「HO-59」を付与され、国際的にもアマチュア無線衛星として正式に認可されました。僅か2.7kgの小さな衛星ですが、HIT-SATの成功は北海道新聞のトップ記事に取り上げられ、道民に大きな夢と希望を提供することができました。





