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『ハイパースペクトル技術の可能性』 5.食品分野への応用

5.食品分野への応用

食品の特徴的なスペクトルは主に近赤外域に現れることが知られている。近赤外法は1960年代に米国において盛んに研究された穀類の非破壊技術に関連して発展した技術である。当初、同法に関する研究は穀類を対象として水分、たんぱく質、脂質などの主要成分の迅速成分測定に関するものが主であったが、計測装置(ハード)及び解析方法(ソフト)の発展に伴い、測定対象品目は飲料、加工食品、青果物など色々な食品の他に、測定対象成分も主要成分の他、塩分、繊維、灰分、残留薬品など多様なものへと拡大した。

 近年、わが国の食文化は多様化する一方で、一般の消費者は、青果物、及び畜産物などの食に対する安全性に強い関心を持っている。とりわけ食材の鮮度や味覚情報、可視化あるいは数値化して簡単に知ることが強く望まれてきている。また、消費者においては品質管理や食品としての安全性の確認のみならず。生産および流通技術面で鮮度や風味などに関する情報を生かすことも必要になってくる。

 北海道工業大学の佐鳥研究室では、ハイパースペクトルカメラ(HSC)を利用した非破壊測定による分光スペクトルを用いて物理的な測定から、生鮮食品の鮮度評価を行っている。HSCを用いることにより、見た目に違いがなくても、数値的に判断することで食の安全・安心の客観的指標を与え、食品を等級化できるという利点につながる。


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図5?1 キュウリのハイパースペクトル画像(擬似RGB表示)

図5?1はHSC1700で撮影したキュウリの様子である。変化を際立たせるために、Rの波長域を反射率での変化の差が大きい730nmの波長に合わせてある。1日目は鮮やかな朱色であるが、鮮度が悪くなるにつれて、赤黒っぽくなっていくのが分かる。これは730nmつまりは全体的にも反射率が落ちていることを意味している。グラフを図5?2に示す。グラフから見ても鮮度に比例して反射率が下がっているのが分かる。

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図5?2 キュウリの分光反射スペクトル特性

同研究室ではプラムについても鮮度を数値化することができることが分かっている。一般的に、皮の薄い果実であれば同様な方法で数値化できる可能性が高いと言ってよい。

ハイパースペクトルカメラによる鮮度測定の技術は野菜や果物に限ったものではなく、肉や魚(切り身)にも応用できることが分かっている。詳細については2005年度の三浦理恵の修士論文を参照して頂きたい。

古くから知られる方法として、キュウリの場合にはブラックライトで紫外線を照射すると図5?2の近赤外域での反射率の変化を可視化することができる。鮮度が良いときには真っ赤に光るのに対し、冷蔵庫に保存するなどして鮮度が落ちてくると、劣化した部分が黒ずんで見えるのである。同様な方法で生卵の鮮度を評価できることが分かっている。その一例を図5?3に示す。


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     左図:可視光写真      右図:紫外線照射時の写真
図5?3 紫外線照射による生卵の鮮度の可視化

2005年度の私たちの研究室の成果として、農業リモートセンシングで用いられるNDVIを光合成活性度の指標として用いれば、葉もの野菜の鮮度変化を追跡することができることを示した。2006年にはその技術を実用レベルまで向上させることに成功した(詳細については後の章で説明する)。日本光合成学会の幹事である東京大学大学院新領域創成科学研究科・先端生命科学専攻の園池公毅先生からは本装置が原理的に植物の光合成量を定量的に計測しているというコメントを頂いている。また鮮度保持の技術にも応用されるマイナスイオンという概念を世界で初めて創った権威者である東京大学医学系研究科の山野井昇先生からは、鮮度という目に見えない概念を数値化するという意義は、その関連分野を考えると計り知れない波及効果があるというコメントを頂いており、それを総括的に分析できるハイパースペクトル技術の潜在性を想起させる。

事実、この技術に対する問い合わせは、花き市場、農産物の収穫適期予測をこれまでの勘頼りから数値化できることへの期待による農協など農業生産者市場、スーパーマーケットへの保鮮フィルムや保鮮効果のあるパックを販売している業者および様々な効果をうたっている肥料メーカーが自社商品の効果を客観的に証明することへの期待からの新規市場が急速に成長し始めている。この技術は北海道新聞、読売新聞、日刊工業新聞等だけではなく、日本農業新聞、農経新聞、(社)農林水産先端技術産業振興センター(STAFF)のニューズレター、(社)日本施設園芸協会など専門誌に多数取り上げられた。

鮮度をモニターする別の手法として、西澤潤一らは東北大学農学部テラヘルツ生物工学部寄附講座でテレヘルツ波が農産物の水分含有量の可視化に役立つことを利用して鮮度に関する情報を非破壊的に試みた研究例がある。植物生理学への貢献は期待できるものの、システムが大掛かりであり実用化には不適であることなど課題を残している点は否めない。

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プロフィール:佐鳥 新

北海道工業大学 電気電子工学科 助教授、北海道衛星株式会社 代表取締役社長、NPO法人宇宙空間産業研究会 理事長、有限会社Catch the Dreams 代表取締役、有限会社先端技術研究所
東京大学工学系研究科航空宇宙工学専攻にて博士課程取得後、宇宙科学研究所(現JAXA)の助手となる。大学院時代から宇宙科学研究所にて小惑星探査衛星「はやぶさ」に搭載されたイオンエンジンや次世代推進として期待される反物質推進に関する研究を行った。当時の所長が道工大に赴任したこともあり、1998年10月から北海道に移る。1998年に有限会社先端技術研究所を設立しマイクロ波エンジンの開発に着手し、2004年3月に完成させた。2003年4月から福島氏と共に北海道衛星プロジェクトを立ち上げ現在に至る。

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