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『精神や思考の成熟に見られる臨界期の法則』
初等理科教育研究所
佐鳥毅
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2.臨界点
1973年、オーストリアの動物行動学者コンラート・ローレンツは、孵化直後のハイイロガンの雛を観察し、「刷り込み」を発見してノーベル賞医学生理学賞を受賞した。臨界期学習の存在は動物行動学者によって確認されていたのである。
一方、脳科学者は約50年前から学習、記憶の基礎過程・臨界期の神経回路網の研究を地道に続けてきた。その研究成果は少しずつ見えてきた。産組研の仁木和久は瞬時記憶に海馬傍回が関与することを発見した。また、瞬時記憶の臨界期は3歳から4歳頃までと述べている。(注3) 利根川進は子育て体験を基に母音のRとLを識別する臨界期は3歳前だと述べている。(注4) 理研の津本忠義は前頭連合野の臨界期は8歳頃から15歳頃までだと述べている。(注5)
脳科学者にはfMRIや多電極法など観測機器を用いて研究を進めている方が多い。心の変化やイメージの動きのメカニズムは遺伝子と環境因子の関わりを調べなければわからないだろう。
著者は子どもの思考や行動の親則性をエソロジー的な発想で調べているうちに、知情意のトータルな脳ネットワークの臨界期は、ヒトセンサーの方が機器より敏感なこと、人間とコンピューターでは得意な分野が異なることに気がついた。発達や思考の親則性についての知見は旧態依然としており、数千年前の知見とあまり変わりがないように思われる。加えて最近の苦い研究者は、ピアジェ、ワロン、ゲイゴツキーをはじめ、孔子の教えやカントの考え方を時代遅れだと決めつけるなど、「温故知新」の精神を軽視しがちである。
文献研究は勿論大切である。しかし、教育研究にあっては最高の権威者は子どもである。子どもが見えない教師や研究者は独創性を発揮できない。基本方程式の項で述べたように、論話の孔子や日本古来の教えには、数千年間に及ぶ長い歴史の積み重ねを通して実感した経験則が潜んでいる。
その一例が図1の生涯精神発達のグラフである。2点延長法の支点は発達・成熟の臨界点に当ることは間違いない。作図法の弱点は誤差である。こうした弱点を解決するため、佐鳥薪は図3の考え方に基づいて基本方程式を変形し、臨界点を計算で求める一般式を作成した。(注1)
図3の直線Mと直線Lの交点の座標を計算すると基準臨界点が決まるが、本稿は数学的なことを説明することは趣旨でないので結論のみ述べる。
要するに基本方程式?式を変形して?式を得たわけである。基本方程式が観測データと一致したから変形できたのである。その意味では、図1に示した生涯精神発達の臨界点は人類の歴史数千年を通して感じてきた無限母集団の平均値といえる。現代の脳科学者は断片的に臨界点を論じているが、図1、図3のような形で脳ネットワークの臨界期の全貌を論じた報告書は眼にしたことがない。
最近の若い研究者は高額な医療機器を括用して脳を覗く努力をしているが、知情意のトータルな脳ネットワークの臨界期は、医療機器では捉えることはできないだろう。脳のどの部位が活性化しているか知ることで精一杯なのである。心の治療に携わっているカウンセラーは、人の心を聞かせることの難しさを実感している。大学、研究機関並びに教育現場で教育的思考研究に携わっている教師や研究者は真摯に考える必要があると思う。
発達や思考の規則性は、高額な医療機器より、研究者自身の感性、即ち、ヒトセンサーがものを言うのである。観察は最も基本的な科学の方法である。観察法を単なる記述科学とあなどってはいけない。図1のような規則性は胎児の成長、幼児初期の成長をはじめ、思考過程にも認められるのである。こうしたことから、30年以上前から、発達や思考の規則性の重要性を説いてきた。
臨界点を予測できれば、子どもの見方が変わるかも知れない。現代はパソコンの時代である。方程式を入力すれば、瞬時に臨界点を求めることができるので計算例を掲げておく。
臨界点について若干補説しておきたい。それは臨界点は正規分布の平均値に当ると考えられることである。胎児の成長、幼児初期の発達、生涯精神発達、思考過程の臨界点などには無限母集団を想定できる。しかも基本方程式の?式や臨界点の計算式の?式からわかるように、成熟比は常に一定である。成熟比は種に固有な臨界常数によって決まる。発達関数によると、種に固有な臨界常数は1<β<0の条件下にある。ヒトの臨界常数は0.8、チンパンジーは0.7である。(注2)
種によって臨界常数が決まっているため、胎児の成長、幼児初期の発達、生涯発達、思考過程などの基準点(ピーク点)が異なっても、成熟比は一定である。このため、成長、発達、思考の成熟に見られる規則性は臨界期と重なるわけである。臨界期の成熟比は同じでも、胎児期、幼児初期、一生及び思考過程の成熟は速さが異なる。基準点(ピーク点)の単位、年、月、週、日、時…などは、発達・成熟の速さの違いを表している。
成熟現象の速さに関わらず基本方程式や臨界点の計算式を適用できるのは、計算式が種に固有な生得的成熟比と対応しているからだろう。








