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精神発達に関する研究(4)

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『精神や思考の成熟に見られる臨界期の法則』

 初等御理科教育研究所
 佐鳥毅
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4.思考の臨界期

実は著者がこの研究に取り組んだ直接のきっかけは、授業改善、カリキュラム開発にあった。文部科学省はカリキュラムの改善・改良に取り組んでいる。ヒトの脳ネットワークの進化・退化は臨界期の学習と深い関係がある。目標・内容はこういった問題を踏まえて策定したのだろうか。ここでは、授業の基礎となる思考過程の臨界期と成熟比の関係について問題提起してみたい。

図7は2007年11月にNHKが学力向上に取組む教師たちという番組で紹介した例である。筑波大学附属小学校の佐々木昭弘氏が指導した6学年「水溶液の性質」の導入場面が紹介されていた。さりげない岡かけ方は子どもの心に逆らわない問題解決自然流を思わせる素晴らしい授業だった。佐々木氏に依頼して主発間を発した時間帯を授業の流れに沿って再現してもらい、成熟比に重ねてみた。図7を見るとわかるように、佐々木氏は絶妙のタイミングで各臨界期に適した活動をさりげなく促した。発間は簡潔で無駄がないため子どもの心にすんなり溶け込んだ。定性的ながら生得的成熟比を感じる授業であった。計算で見つけた成熟比は思考過程にも適用できるのである。

図7 思考過程の成熟比(1)


図8 佐々木氏の場の設定


思考や行動の規則性に着目したのは30数年前からである。しかし、当時の我が国の教育界には思考や行動の規則性に注意を払う指導者は数少なかった。著者の考え方のよき理解者は12年前に永眠なさった故蝦谷米司博士であった。当時はエソロジー的な発想で子どもを科学する雰囲気は熟していなかった。科学と哲学を溶け合わせる機運が芽生えたはかりであった。
一般の故師や子ども研究に疎い若い研究者には授業があまりにも日常的なため、追究括動の底流にある思考のうねりが見えない方が多い。教育が科学になりにくい原因の一つはここにある。結局、著者の考え方を理解できた方は数少ない授業の達人と一部の研究者だけであった。子どもの思考や行動の規則性は、子どもの心やイメージの動きを感知しなければ見えないものである。しかし、佐々木氏のように授業と真剣に取組んでいる教師なら、生得的プログラムに関する知識がなくても、“考える”とか“わかる”といった心内括動には何かがあることを体験的に感じていると思われる。佐々木氏はエソロジー的な感性を鍛えていたから、自然体で授業に臨み、子どもの心の動きを正確に察知できたのである。

授業だけではない。日常生活には成熟比と対応する現象が沢山あるが、当たり前なものは意識しにくいため、規則性を見落としがちである。

図9、図10は、30年以上も昔の授業である。当時は、思考や行動の規則性にだけ関心が向いていたため、もっぱら図10の推移図づくりに熱中していた。当時の学習指導要領には全学年を通して内容が52項目あった。そのうち30項目以上について、青森県教育センター長期研修生の協力を待て、思考過程の規則性を探った体験がある。まだ成熟此や臨界期には気付いていなかった。当時の授業分析のデータを時系列に沿って調べた結果、経験年数、研究心、子どもの実態によって授業に要する時間は異なるが、授業の目標に到達できた場合は、臨界期はいずれも8回であった。

図9 思考過程の成熟比(2)


図10 思考の推移図

同じ指導案で進めても、子どもが見える教師と見えない教師では、到達時間も理解の質も異なるのである。図9の「2年やじろべえ」は6時間扱いとして計画を立てた。子どもの心の動きが見えない教師の中には、9時間、10時間以上かけてやっと第8臨界期に達した方もいた。指導力の違いはデータを取ってみて初めて実感できるものである。研究会に招かれた指導主事や研究者の中には、子ども不在の教育論を振りかざして評論する方もいる。教育改革は道遠しである。教員養成大学や教育センターには、教員の資質向上に何が必要か教育現場の目線で講座の内容を検討し、子どもから学ぶ教師を育てて欲しい。
臨界期の難しさは感知にある。胎児の成熟状況は産婦人科の専門医なら感知できるだろう。幼児初期(乾生?3歳5か月)は、第1臨界期?第8臨界期まで全て感知できる発達期である。先入観念を持たずに愛情で包みながら幼子を見つめれば誰でも発達・成熟の変調に気付くだろう。
生涯精神発達の場合は、いろいろなノイズが邪魔をするため臨界期を感知しにくいが、知情意のトータルな脳ネットワークが変調する時期については大抵の方々が体で感じているようである。
授業に放ける思考の臨界期は、時間が速すぎて第1臨界期から第3臨界期は殆ど感知できない。第5臨界期から第8臨界期は確実に感知できる。教師は生得的な成熟比を感知するヒトセンサーを、プロ意識を持って鍛えて欲しいものである。


III.結び

基本方程式と発達関数を手掛かりに、成熟比について考えてみた。?式?式は、発達・成熟現象は種に固有な成熟比と一致することを示していた。
胎児の成長、幼児初期の発達、思考括動にも見られた。内発的動機づけが適切な場合は追究活動が『臨界期の法則』に従う様子もよく見えた。
?式も?式も再現性には問題がない。できれば『Tsuyoshi?Shinの法則』と名付けたいと思っている。臨界期については実際に観察しなければ納得できないだろう。理屈より実体験が大切である。
?式が導く臨界点は種に固有な臨界常数によって決まる。発達・成熟の規則性は、数学的には種に固有な成熟比に対応する現象であった。成熟比は進化を通してDNAに組込まれたプログラムの一種と考えているが、この間選は脳科学者や分子生物学者等、専門家に委ねたいと思う。

脳イメージング法では生得的プログラムを解明できないだろう。利根川進のように分子生物学的技法で遺伝子をコントロールし、行動をモニターしながら脳の働きを調べなければ、成熟比に関わるプログラムの実体は確認できないと思う。
立花隆は知情意のトータルな脳ネットワークの臨界期のメカニズムを解明するためには100年以上の時間が必要だと予言している。(注6)
最近は独立行政法人理化学研究所でも生化学的な技法を取入れた研究を始めている。立花隆の予言より早くメカニズムがわかるかも知れないが、実証性を重視する科学が脳ネットワークの臨界期の全容を解き明かすことは極めて困難だろう。

教育的思考研究では発達・成熟の臨界期を数学的に予測して進めることも大事だと思っている。佐々木氏の授業や昔の授業分析に見たように、思考の規則性は、数学的には『臨界期の法則』に従う現象と断定できそうである。発達の規則性も計算結果と一致した。顧みれば50年。子どもから学ぶ意味と意義を改めて考えさせられた。発達研究や思考研究の基本は、子どもから学ぶことであった。これからもエソロジー的な方法でデータを集め、数学的予測の精度を検証したいと思う。


<参考文献>

(注1) 2007年3月  佐鳥新「帥点の軸方」 プライぺ?ト資料
(注2) 2007年9月  佐鳥穀「仮称・臨界期の法肌 プライぺ?ト資料
(注3)2007年4月 仁木和久「脚学と教育」 産総研
(注4)2001年10月 利根川進「私の脳科学講義」 岩波書店
(注5)2007年7月 津本忠治「脳部位とその発達」 理化学研究所
※脳科学からみた「青少年の意欲」の問題プレゼンテーションによる
(注6)1996年5月 立花隆 「脳を究める」 朝日新聞社
(注7)2007年12月 佐々木昭弘「授業の再現記録」 プライぺ?ト資料

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プロフィール:佐鳥 新

北海道工業大学 電気電子工学科 助教授、北海道衛星株式会社 代表取締役社長、NPO法人宇宙空間産業研究会 理事長、有限会社Catch the Dreams 代表取締役、有限会社先端技術研究所
東京大学工学系研究科航空宇宙工学専攻にて博士課程取得後、宇宙科学研究所(現JAXA)の助手となる。大学院時代から宇宙科学研究所にて小惑星探査衛星「はやぶさ」に搭載されたイオンエンジンや次世代推進として期待される反物質推進に関する研究を行った。当時の所長が道工大に赴任したこともあり、1998年10月から北海道に移る。1998年に有限会社先端技術研究所を設立しマイクロ波エンジンの開発に着手し、2004年3月に完成させた。2003年4月から福島氏と共に北海道衛星プロジェクトを立ち上げ現在に至る。

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