地球温暖化や大気汚染といった環境問題が深刻化する中、電気自動車やハイブリッド車、燃料電池車など、環境への負荷が少ない自動車の必要性が高まっている。各自動車メーカーはこうした車両の研究開発に力を入れているが、実際に販売されている電動車両はまだまだ少なく、技術開発の進捗状況や実用化へ向けての課題は一般にそれほど知られていないのが実情だ。そんな中、国内最大規模の電気自動車展示会「EVS-22」 (財団法人日本自動車研究所主催) が2006年 10月 23日から 28日までパシフィコ横浜で開催され、世界 13ヶ国から参加した 100以上の自動車メーカーらが最先端の技術を披露した。
これまで「未来の車」とされてきた燃料電池車をはじめ、電動車両はどこまで実用化に近づいているのか。国内自動車メーカーの出展ブースから、エコ自動車の「いま」をレポートする。
トヨタが「プリウス」の量産を開始して 9年、ガソリンとモーターで駆動するハイブリッドカーは年々普及率を上げ、他社も次々とハイブリッド市場に参入している。それに比べ、電気自動車や燃料電池車は商用や官公庁などごく一部での使用に限られており、一般ユーザーへの市販に至るにはまだ多くの課題を残している。
電気自動車の歴史は古く、ガソリンが不足した 1940年代後半には日本でも需要が高まったものの、その後ガソリンスタンドの普及などにより衰退。現在の保有台数 (2005年 3月現在) は 2輪車などを含めても約 8500台にとどまっている。
電気自動車は走行中に排出ガスが出ないことに加え、騒音が小さく振動が少ないなどの利点があるものの、CO2 を大量に発生する火力発電所の電力を使うという点で環境性能を疑問視する声もある。
一方、水素をエネルギー源とする燃料電池車は有害物質を排出せず、エネルギー効率にも優れている。このことから世界中で積極的に開発が進められているが、コストの低減や「水素社会」のインフラ整備など越えるべきハードルは多い。
トヨタやホンダをはじめとした大手自動車メーカーはこれらの課題解決に向けて燃料電池車の研究開発を進めており、「2010年代のなるべく早い時期」の量産開始を目指している。
また、海外でも普及への取り組みが加速。米国では 93年に官民共同開発プロジェクト「PNGV」が発足し、その一環として燃料電池自動車の開発プログラムがスタート。2020年を目処に主要エネルギーを水素へ転換することを目標に、燃料電池車と水素エネルギーに重点を置いて開発を進めている。ヨーロッパでも、燃料電池バスのプロジェクトを組み、2001年からデモンストレーション試験などを実施している。
一般庶民の手に届くのはまだ先のことになりそうだが、「未来の車」は少しずつ現実のものに近づいている。
トヨタは、燃料電池と二次電池を動力源としてモーターを駆動する燃料電池ハイブリッド車コンセプトモデルの「Fine-X」のほか、ハイブリッドカーのレクサス「GS450h」のカットボディ (ベアシャシー)、「FCHV-BUS」カットボディを出展。すでに燃料電池ハイブリッド車「トヨタ FCHV (*注)」を実用化しているトヨタだけに来場者の関心も高く、なかでもレイアウトの自由度を重視した Fine-X が来場者の注目を集めた。
Fine-X の開発コンセプトは、「燃料電池車が一般に普及する上で絶対条件となる『クルマとしての新たな魅力』を付加すること」 (同社説明員)。スタックやバッテリー、水素タンクなどのパワーユニットをすべて床下に収納することによって、イスト並の外形サイズにしてカムリクラスの室内空間を確保しているほか、乗り降りに便利な大型ガルウィングドアや電動の「お出迎えシート」を装備。4輪独立駆動インホイールモーターの採用により、自在な Uターンや駐車、その場での回転も可能だ。
世界で初めて量産ハイブリッド乗用車「プリウス」を発売した同社は、燃料電池車の研究開発でも業界をリードしており、02年には燃料電池ハイブリッド車「トヨタ FCHV」を日米で限定発売している。さらに 06年には同車両の一部改良モデルを発表し、燃料電池車として国内で初めて型式認証を取得、同年 7月には限定リース販売を開始した。
しかし、リース料は月額 105万円と高額で、販売先は官公庁やエネルギー関連企業に限られている。業界に先駆けた「実用化」といえるものの、すぐに一般発売するのは難しいという。
同社は燃料電池車普及への課題として以下のような点を挙げている。
トヨタはこれらの課題解決に向けて研究開発を進めており、「2010年代のなるべく早い時期」の量産開始を目指している。
トヨタとグループ出展したダイハツの目玉は、電気自動車でありながらスポーティな走りを実現した「コペン EV」。ジムカーナの大会に出場するほどの走行性能を持っており、特にスタートダッシュではガソリン車にダントツの差をつけるという。
このほか、燃費向上と排出ガス低減を実現した軽商用車初の市販ハイブリッド車「ハイゼットカーゴハイブリッド」や、大人 4人がゆったり乗れる燃料電池ハイブリッド車「タント FCHV」も展示された。
ホンダは、エンジンとモーターアシストを高性能化した「シビックハイブリッド」とその IMA エンジンのほか、次世代の燃料電池技術を採用したプレミアムセダン「FCX コンセプト」を披露した。
FCX コンセプトについては 9月に走行可能モデルが公開されており、その際、08年度にこの車両をベースにした新型車を日米で限定発売するとの発表があった。走行可能モデルは補助電源に小型高効率のリチウムイオンバッテリーを採用しており、570kmの航続距離を実現している (LA-4 モード走行時における Honda 測定値)。
その他の詳細は本サイト内の NEWS (9月 28日) を参照。
さらにブースでは、家庭用水素供給システム「ホームエネルギーステーション III」、製造時のエネルギーと二酸化炭素の発生を従来の半分に抑える次世代型薄膜太陽電池といった最先端技術も展示された。
日産は、96年にリチウムイオンバッテリーを世界で初めて車両に搭載して実用化するなど、電動車両を実現するための基幹技術であるモーターやバッテリーなどの開発に取り組んできた。
今回展示した「エクストレイル FCV 05年モデル」は、自社開発燃料電池スタックの搭載により、旧モデルに比べ最高出力が 90kW まで向上している。また、従来の 35MPa 高圧水素容器より水素の搭載量を 3割増加させた高圧水素容器搭載車両も開発。高圧モードにした場合には 500km 超の航続走行が可能だという。
このほか、歴代の電動車両「たま電気自動車」や「ハイパーミニ」、さらに高齢運転者向けの超小型「マイクロ UV」なども展示。そのユニークなデザインが来場者の目をひいた。
三菱は、10月 25日にグッドデザイン大賞を受賞した「i (アイ)」をベースに、大容量リチウムイオン電池と小型・高出力モーターを搭載した電気自動車「iMiEV」を出展した。「リヤ・ミッドシップレイアウト」を採用して長いホイールベースを確保することにより、リチウムイオン電池を床下に搭載。さらに、モータやインバーターはエンジンやトランスミッションのあったスペースに収納し、大人 4人が乗車するのに十分な居住スペースを確保した。
充電方法としては、一般家庭や賃貸駐車場での「家庭用充電」 (100V、200V) と、短時間で充電できる「急速充電」の 3通りに対応している。
また同社は 2006年 11月から、この「iMiEV」を活用して電力会社との共同研究をスタートさせる。まずは電力会社の業務用車両としての適合性や研究車両と急速充電インフラとの適合性を確認し、07年秋からは実証走行も予定しているという。
スバルが出展したのは、高い環境性能と静粛性を実現した電気自動車「R1e」。すでに東京電力の営業所で 10台が稼動しており、同社説明員は「電気自動車で公道を走っているのはウチだけです」と胸を張る。東京電力が開発した急速充電器を使えば、わずか 15分で約 80% の充電が可能だという。
ガソリン走行と水素走行を選択できるデュアルフューエルシステムを採用した「RX-8 ハイドロジェン RE」 (2006年 3月リース販売開始) を披露。
燃料電池車「IONIS (イオニス)」や、電動車いすのコンセプトモデルを展示。
先進のハイブリッドシステムとクリーンディーゼルテクノロジー「DPR」を組み合わせた世界初の小型ハイブリッドトラック「日野デュトロハイブリッド」を出展。