近年の日本のプロダクトにおいて、広く認知されるようになったユニバーサルデザイン(UD)。
都市や公共施設・住宅のバリアフリー化、誰にでも識別しやすく使いやすいパッケージやピクトグラムの普及、音声での入出力に対応した電子機器の進化など、UDの領域は年々拡大し、その市場規模はいまや3兆円に迫る勢いだ。
一方で、家庭用シュレッダーによる幼児の指切断事故や、瞬間湯沸かし器による窒息死亡事故など、身近に起こるいたましい事故は後を絶たない。
「安全・安心」は、企業の信頼性を左右する重要なキーワードであると同時に、日本の強い“ものづくり”を実現するうえで欠かせないファクターでもあるといえよう。
さる2006年12月7日、「ユニバーサルデザイン ビジネス・シンポジウム2006」が、トヨタユニバーサルデザインショウケース(東京都江東区)で開催された。一昨年の「食のユニバーサルデザイン」、昨年の「情報のユニバーサルデザイン」に続く第3回目のテーマは「安全・安心」。
日常生活におけるけが・事故の防止方法や、災害によるダメージを軽減するユニバーサルデザインの工夫例を取り上げながら、株式会社TOTO、災害救命具の初田製作所、UD産業創造研究会などUDを推進する企業・団体のケーススタディも交え、“一歩先をゆく安全・安心”を実現する方策を多方面の識者に尋ねた。
参加者は、自動車業界をはじめ家庭用生活機器、福祉機器、災害用機器ほか幅広い業界のメーカーの開発者や販売代理店、設計士、建築家、デザイナーなど約300名。満席の場内は熱気に包まれた。


会場には、聴覚障がい者のための文字聴講システムも取り入れられた。常時4〜5名の入力者がその場でスピーチをテキスト化し、大型ディスプレイで場内に表示する。タイムラグは最大でも10秒程度。聴覚のハンディがあっても、ほぼリアルタイムにシンポジウムに参加することができる。
中尾教授の研究の一つである「失敗学」を一言で表現すると「人のふりみて我がふり直せ」。
他者の失敗から演繹して何が学べるか、過去の失敗をどう次に生かすかを研究する学問である。
通常は失敗すると明らかにしたくないという心理が働くため、隠蔽や偽装などの問題につながることが多い。
その発想を転換し、失敗体験を共有することで、より安全で安心なものづくりを実現しようというのが失敗学の精神だ。
これは科学技術振興機構「失敗知識データベース」として一つの集約を見ており、同データベースには中尾教授もデータ作成の代表者として名を連ねる。
講演は、HDD不良問題や充電電池のリコール、発電所タービン事故や列車脱線事故など、近年のニュースにのぼった大小さまざまのトラブル事例を元に、
それらの事故から得られる教訓を解説するかたちで進む。
「相手を思い、失敗を見つめ、想像して予測することがユニバーサルデザインである」とする教授の弁に、場内からは大きな拍手が湧いた。
快適な生活をおびやかすものは、けがや事故だけではない。
紛争下や自然災害下でいかにして安全を確保し、安心できる生活を取り戻すかもまた、
ユニバーサルデザインの重要なファクターである。NPO法人「ピース ウインズ・ジャパン」の松田氏の講演では、
国際紛争や災害下での実例を挙げながら、現場に求められるデザイン要件について解説された。
災害下において公的な支援体制が整うのは、災害発生後からおよそ3日後とされる。
つまり初動72時間は、民間団体や企業からの支援が最も必要なとき。
災害地での情報インフラのデザインにはじまり、被災者の救護シェルター構築までの一連の流れについて、
近年の国際紛争や2003年スマトラ沖地震、2004年新潟県中越地震などの例を挙げながら、当時起こった問題点についての詳しい解説がなされた。
松田氏の講演に関連し、会場のトヨタユニバーサルデザイン ショウケースでは、『安全・安心のユニバーサルデザイン展』も開催されている(翌1月21日まで)。
ハイブリッドカーを電源供給源として、被災地で実際に使われた救護テントやシェルターの様子を再現している展示は圧巻だ。





